順序集合で圏(4)

へんの続き。順序ではおなじみの概念たち。考える順序集合を D として、その部分順序集合を A, B,... とする。x は D の元を表す。

「x が錐」という言い方は普通はしないが、錐ができるなら実質的に1つしかなく*1、神経質になることはないので気にせず使うことにする。

x が A の上界である(1)
A↓x = A (圏同型)
x が A の上界である(2)
x が A からの錐
x が A の下界である(1)
x↓A = A (圏同型)
x が A の下界である(2)
x が A への錐
A の上限 sup A
colim A
A の下限 inf A
lim A

最大(小)は上(下)限と本質的に同じである。

A の最大 max A
A の終対象
A の最小 min A
A の始対象

「x が A の極大元である」とは、x が A に含まれていて、A 内に x より大きい元がないという意味。

x が A の極大元
x↓A = {x} (圏同型)
x が A の極小元
A↓x = {x} (圏同型)

*1:ここ 参照

順序集合で圏(3)

順序集合での図式の極限

順序集合での極限は、図式を構成する対象だけで決まる。
図式が与えられたとして、錐を考えると、図式(=錐の底)の射を足しても取り除いても、錐の可換性は保たれる。つまり、射の有無で錐が錐でなくなることはない。従って図式の対象だけを考えればよい。
ただ、よく出る図式の多くが充満部分圏であるため、断りのない場合は図式としては射をフルに含んでいるとしておく。

順序集合での極限

簡単にまとめると、順序集合では以下のような概念の同値性がある。

(順序)最大下界 ⇔ (束)∧、ミート ⇔ (圏)直積 ⇔ (圏)極限
(順序)最小上界 ⇔ (束)∨、ジョイン ⇔ (圏)直和 ⇔ (圏)余極限

順序集合で圏(2)

順序集合を圏論的に考えるのに便利な概念を整理する。簡単のため、充満部分圏とその埋め込み関手と関手圏の対象としての埋め込み関手をポインティングする関手を同じ記号で表すことにする。

順序集合からの関手

プレ順序集合から一般の圏への関手は忠実関手になる。Hom 集合が空か 1 点集合だから明らか。

順序集合のコンマ圏*1

考えるプレ順序集合を D 、その部分プレ順序集合を A、B とする。
コンマ圏 A↓B

対象
(a, b)∈A×B、ただし a≦b
(a, b)→(a', b')
a≦a' かつ b≦b'

という圏になる。この射(順序)でコンマ圏 A↓B はプレ順序集合になる。
コンマ圏 A↓B からは A、B へ射影があるが、これは充満とも対象に関して単射とも限らない。当然忠実ではある。

コンマ圏の片方を1点(からなる順序集合)の場合を考える。すなわち x∈Dとして、A↓{x}、{x}↓A を考える。どちらも同じなので前者のみ考え、記法も A↓xとする。
コンマ圏 A↓x

対象
(a, x)、a∈A、a≦x
(a, x)→(a', x)
a≦a' かつ x≦x

だが、冗長さを省くと単に

対象
a∈A ただし a≦x
a → a'
a≦a'

となる。明らかに、コンマ圏 A↓x から A への射影は充満部分圏になっている。従って D の充満部分圏にもなっている:

A↓x ⊆ A ⊆ D

特別な場合としてスライス D/xD の部分プレ順序集合になっている。

*1:コンマ圏の定義はComma category - Wikipedia参照。

順序集合で圏(1)

順序集合とは、その元の間に順序関係 ≦ がある集合。この関係「≦」を単純に矢印「→」に読み替えると圏になる。逆に、ある条件を満たす圏は「→」を「≦」に読み替えることで順序集合になる*1
ということは、順序集合にまつわるあれこれ*2を圏の概念で表すこともできるはず。
試しに、順序集合の定義たちを圏論的に表してみる。ここでの絶対値記号は要素数を表す。また a、b は考えてる圏の任意に選んだ対象のこととする。

プレ順序集合
| Hom(a, b) | ≦ 1
(半)順序集合
| Hom(a, b) ∪ Hom(b, a) | ≦ 1
(半)順序集合
骨格的なプレ順序集合。
全順序集合
| Hom(a, b) ∪ Hom(b, a) | = 1
積と和を持つ順序集合。
完備束
完備かつ余完備*3な順序集合。
有向集合
プレ順序でかつフィルター圏*4
部分順序集合*5
順序集合の充満部分圏。

そこそこ簡潔に表すことができたんじゃないだろうか。

*1:圏としての順序集合の定義は順序集合 - Wikipediaあたりを参照。

*2:Glossary of order theory - Wikipediaにイヤになるほど沢山挙げられている。

*3:任意の図式に対しての(余)極限が常に存在する圏。

*4:任意の2点図式からの錐、任意の平行(共端)射からの錐が存在する圏。

*5:束などでも同様にして定義する。

デカルト射(三度目の正直)

前々回前回に続いて3度目。そろそろ打ち止め。Cartesian morphism in nLabを参考に。
前回のやり方を基本として、より形を整えると、デカルト射の定義は以下のようになる:

p: E → B を関手、f: X → Y を E での射とする。f がデカルト射であるとは、次の圏と関手の可換図式が (厳密な) pullback になることである。

          E/f
E/X ──────→ E/Y
 │                │
 │                │
 │p               │p
 │                │
 ↓      B/pf      ↓
B/pY──────→B/pY

余像から像への射


射 f から右図のように、ker f、cok f、cok ker f、ker cok f が作られる。

  (ker f) ; f
= (ker f) ; (cok ker f)
= 0

と cok ker f の普遍性より(1)の射が存在する。従って

  (cok ker f) ; (1) ; (cok f)
=                f  ; (cok f)
= 0

がなりたつ。
また、(1);(cok f) と平行(共端)なゼロ射 0 を考えて

  (cok ker f) ; 0
= 0

がなりたつ。
上記2式から、特に

  (cok ker f) ;  0
= (cok ker f) ; (1) ; (cok f)

である。
cok ker f はエピだから、

0 = (1) ; (cok f)

従って

  (ker cok f) ; (cok f)
=         (1) ; (cok f)
(= 0)

と ker cok f の普遍性より、(2)の射が存在する。