順序集合のガロア接続

ガロア接続は名前の恐ろしさに反して意外に簡単で面白い。証明も難しくない上に面白い。別の場所に書いたのを転載する。
基本的にマックレーンの「圏論の基礎」pp. 124-126 の劣化コピー

ガロア接続*1

順序集合 R, S の間に反単調写像*2 f:R→S, g:S→R があり, 行って戻ると大きくなる;

r ≦ g(f(r))  (∀r∈R)
s ≦ f(g(s))  (∀s∈S)

とき, 写像の対 f:R→S, g:S→R をガロア接続と呼ぶ.

ガロア対応*3

R, S を順序集合とし, f: R→S, g: S→R をガロア接続とする.
R の部分集合 R' = {r∈R|r=g(f(r))} と
S の部分集合 S' = {s∈S|s=f(g(s))} について, R' 〜 S' *4 である.

証明
g・f=idR', f・g=idS' を示せばよいが, R', S' の定義よりこの性質は満たされている. 従って f(R')⊆S', g(S')⊆R' を言えばよい.
【f(R')⊆S'】
任意の r∈R' に対して f(r)∈S' を示せばよいがこれは f(g(f(r)))=f(r) ということである.
r に対してガロア接続を適用して, g(f(r))≧r である. 両辺を f で写すと不等号が反転して f(g(f(r)))≦f(r) となる.
一方, f(r) に対してガロア接続を適用して, f(g(f(r)))≧f(r) となる.
順序集合だから従って f(g(f(r)))=f(r).
【g(S')⊆R'】
同様にすればよい.
以上で集合の同型を示したが, f,g が 順序反転写像 だから, 順序集合としても順序(反転)同型であることもわかる. 実際のガロア理論ではこの同型がガロア対応になる.

*1:ref: 圏論の基礎 IV-5 前順序集合に関する随伴

*2:順序を反転する写像. つまり, x≦yならばf(x)≧f(y) となるような順序集合間の写像.

*3:ref: 圏論の基礎 IV-5 問題2

*4:全単射がある.

メモ

定理28

G=Gal(E/K) として、 E×G-加群と思う。同じことだが、群環Z[G]を環とする加群と思う。
GE× 係数1次コホモロジーを考える。具体的な式は Wikipedia にある。ちなみにこの群コホモロジーの具体的な表式は、河田では標準鎖複体を用いたものとして出ている。
ネーター等式の解というのは1-コサイクル Z1(G, E×) の元。α/σ(α)1-バウンダリー B1(G, E×)の元の逆数。
定理は、1次コホモロジーが消えることを主張している:

H1(G, E×)={1}

巡回群コホモロジー

一旦離れて、巡回群の群コホモロジーの一般論を行う。河田ではこれを、標準鎖複体を使わず、ノルムを用いた方法で計算している*1巡回群 Cm の生成元を σT=(σ-1)N=(1+σ+σ2+…+σm-1) として、1次コホモロジー

H1(Cm, B) = ker(N)/Im(T)

定理30(=定理90)

戻って、 G=Gal(E/K)巡回群である場合を考えると、上記の二つの事実から定理90を得る。

Ker(N)/Im(T) = NE× / TE× = {1}
NE×〜TE×
NE× = { α | N(α)=1 }
TE× = { σ(α)/α | α ∈ E× }

*1:河田では、巡回群の位数とコホモロジーの次数が共に n で表されているが別ものである。

松坂和夫「代数系入門」の最大公約数

昔々読んで感銘を受けた証明を書く*1

n、m > 0 を自然数とする。
J = { x : 整数 | x = an + bm, a, b: 整数} とする。
J は n、m の最大公約数 d の倍数の集合と一致する。

明らかに n、m ∈ J だから、J は正の数を含む。従って J には最小の正の元が存在し(整列性)、それを d とする。 d は J の元だからある整数 u、v が存在して

d = un + vm    (1)

と表すことができる。J の任意の元 z = an + bm に対してこれを d で割って

z = qd + r, 0 ≦ r < d

剰余 r は

r = z - qd = (a - qu)n + (b - qv)m

となり、J の元である: r ∈ J 。d の取り方から r = 0。即ち z は d の倍数。
逆に d の倍数は d の表示式(1)を整数倍することで J に含まれることがわかる。

*1:少し簡単にした

スケール変換

英辞郎によると, スケールとは目盛り、定規、物差し、尺度、基準のことのようなので, 「スケール=単位系」と思うことにします. ところで, 小島順の線型代数によると単位(系)とは 1 次元数ベクトル空間 R (=実数全体)から1次元実ベクトル空間 L への線型同型写像なりとあります. ここで L は「長さ」や「時間」のような「量」のなす空間です. 単位系の例としてメートル系とセンチメートル系をとればそれぞれに対応する線型同型写像 m と c があって,

m: R → L (1 ├→ 1[m])
c: R → L (1 ├→ 1[cm])

ということになります. 数 1 をそれぞれ 1 メートルと 1 センチメートルに移す写像です.
ここでスケール(=単位系)をメートル系からセンチメートル系へ変換することを考えます. これは写像 m の前に R から R への 100 で割る線型同型を合成してやればちょうどセンチメートルの写像 c になります:

   ×(1/100)      m
R ─────→ R ─→ L
____________________↑
c

100 で割る写像の出自は m-1・c: RR という合成写像です. 上の図に代入すればすぐ確認できます. スケール変換の本質的部分はこの写像ということになります:

メートル(m)からセンチメートル(c)へのスケール変換(=単位系の変換)は
m-1・c: RR

これは単位系の変換だから L の方は何も影響を受けません. しかし通常スケールの変換と言ったとき, 量(ここでは長さ)を大きくしたり小さくしたりする操作を意味することが多いようです. この意味でのスケール変換はどう捉えられるでしょうか. メートル系からセンチメートル系へのスケール変換と言ったとき, 長さを 1/100 倍(1m → 1cm)することが自然に思えます. 数としては同じ 1 ですがどの単位系で測るかで長さが変わるということです. これは次のような写像として表すことができます:

    m-1     c
L ──→ R ─→ L
1[m]├→ 1 ├→ 1[cm]

つまり,

メートル(m)からセンチメートル(c)へのスケール変換(長さの変換)は
c・m-1: L → L

ということになります. これは長さの空間から長さの空間への変換(自己線型同型)だから, 長さを変える写像になり, 先の単位系の変換と見たものとは意味が違ってきます.
まとめると, あるスケール(=単位系) m から別のスケール c へ移るというときには, それを表す m-1・c: RR と c・m-1: L → L という二種類の写像が構成でき, それぞれ解釈が異なります.

終対象, 積, イコライザ, プルバックの相互関係

積を終対象(1)とプルバックで.

A×B ─→ A
 │      │
 ↓      ↓
 B ──→ 1

f,g:A→Bのイコライザをプルバックと積で.

 E ──→ A
 │      │
 │      │<A,f>
 ↓      ↓
 A ──→ A×B
    <A,g>

プルバックを積とイコライザで.

 P           B
   \      ┐│
     ┘  /  │
      A×B   │
     /      │
   └        ↓
 A ────→C