スケール変換

英辞郎によると, スケールとは目盛り、定規、物差し、尺度、基準のことのようなので, 「スケール=単位系」と思うことにします. ところで, 小島順の線型代数によると単位(系)とは 1 次元数ベクトル空間 R (=実数全体)から1次元実ベクトル空間 L への線型同型写像なりとあります. ここで L は「長さ」や「時間」のような「量」のなす空間です. 単位系の例としてメートル系とセンチメートル系をとればそれぞれに対応する線型同型写像 m と c があって,

m: R → L (1 ├→ 1[m])
c: R → L (1 ├→ 1[cm])

ということになります. 数 1 をそれぞれ 1 メートルと 1 センチメートルに移す写像です.
ここでスケール(=単位系)をメートル系からセンチメートル系へ変換することを考えます. これは写像 m の前に R から R への 100 で割る線型同型を合成してやればちょうどセンチメートルの写像 c になります:

   ×(1/100)      m
R ─────→ R ─→ L
____________________↑
c

100 で割る写像の出自は m-1・c: RR という合成写像です. 上の図に代入すればすぐ確認できます. スケール変換の本質的部分はこの写像ということになります:

メートル(m)からセンチメートル(c)へのスケール変換(=単位系の変換)は
m-1・c: RR

これは単位系の変換だから L の方は何も影響を受けません. しかし通常スケールの変換と言ったとき, 量(ここでは長さ)を大きくしたり小さくしたりする操作を意味することが多いようです. この意味でのスケール変換はどう捉えられるでしょうか. メートル系からセンチメートル系へのスケール変換と言ったとき, 長さを 1/100 倍(1m → 1cm)することが自然に思えます. 数としては同じ 1 ですがどの単位系で測るかで長さが変わるということです. これは次のような写像として表すことができます:

    m-1     c
L ──→ R ─→ L
1[m]├→ 1 ├→ 1[cm]

つまり,

メートル(m)からセンチメートル(c)へのスケール変換(長さの変換)は
c・m-1: L → L

ということになります. これは長さの空間から長さの空間への変換(自己線型同型)だから, 長さを変える写像になり, 先の単位系の変換と見たものとは意味が違ってきます.
まとめると, あるスケール(=単位系) m から別のスケール c へ移るというときには, それを表す m-1・c: RR と c・m-1: L → L という二種類の写像が構成でき, それぞれ解釈が異なります.