冪集合関手と逆像

集合Xのすべての部分集合の集合を冪集合(power set)と呼び、2Xとか、P(X)などと書く。
集合から冪集合を作るというのはどういうことかをカテゴリーで考えてみる。

冪集合の構成を集合圏SetsからSetsへの関手として考えたい。集合Xに集合P(X)が対応するはずだが、写像f:X→Yには何が対応するだろう?その関手は共変か反変か?
集合Xの部分集合X'はXから2への特性関数で表すことができる。ただし、2 = {0, 1}。

X'(x) = 1 (x ∈ X')
      = 0 (それ以外)

特性関数と部分集合を同じ記号X'で表した。この見方では、すべての部分集合の集合は、すべての特性関数の集合ということになる。これは集合圏Setsで言うと、Sets(X, 2)ということになる:

2X = P(X) = Sets(X, 2)

集合Xに対して冪集合Sets(X, 2)を作ると考えると、冪集合関手は

P = Sets(-, 2)

と考えることができる。
経験上、Setsの第一引数をブランクにした関手は、反変であるとしたほうがいい。なので、冪集合関手も反変とする。
では、射(関数)はこの関手でどう移されるのか?通常のHom関手の取扱いに従って、

Y     Sets(Y, 2)    ∋  Y'
↑    |               ┬
|f   |Sets(f, 2)     |
|    ↓               ↓
X     Sets(X, 2)    ∋ f;Y'

となる。f;Y'(普通の合成写像の記号だと、Y'・f)は何だろうか?
f;Y'は、Yの部分集合Y'にXの部分集合f;Y'を対応させたものだが、実は f;Y' = f-1(Y')、つまり逆像になっている。

f;Y' = f-1(Y')

[証明]
(=>)
任意のx∈Xに対して、

    x.f;Y'   = 1      (圏論記法)
⇔  Y'(f(x)) = 1      (写像記法)
⇔  f(x)    ∈ Y'     (集合記法)
⇔  x       ∈ f-1(Y')

(<=)
上の議論を逆にたどればよい。
x.f;Y' = 0 の場合は、各式を否定すればよい。
[証明終わり]
ということで、

Sets(f, 2) = f-1

が言えた。

写像fを部分集合系で考えるとき、順像で考えるのも逆像で考えるのも、共に元の写像fの情報を全て持っている。しかし以上の議論からは、形式的に整っているのは逆像の方だということが示唆される。