多項式環の随伴(普遍性)による特徴づけ

Mac Lane の「圏論の基礎」III章1節演習問題7に、可換環 K 上の多項式環 K[x] の普遍的構成で得られることを示す問題がある。
色々偶然が重なっていくつかのやり方がみつかったので書いておく。
集合圏を Sets可換環の圏を CRng と書く。また n 点集合を n と書く。

余スライス圏を用いる方法

CRng の対象 K に対して 余スライス圏 K/CRng を考える。特に自然な射影関手 cod: K/CRngCRng がある。また U を忘却関手 CRngSets とする。
このとき、関手の合成 cod ; U: K/CRngSets の左随伴 F: Sets → K/CRng が存在する:

F ┤cod;U

F は実は集合 {x} に対して CRng の射 K → K[x] を割り当てるので、F と cod を合成して

F;cod : Sets ─→ CRng
          n ├→ K[x1,..., xn]

を考えると不定元の集合に多項式環を対応させる関手になる.

点付き環を用いる方法

これは Awodey 「Category Theory」の Example 9.10 に載っている方法で、点付き環を用いる。
可換環 K とその元 k の対 (K, k) を対象として、射 (K, k) → (R, r) は環準同型 f: K → R で f(k) = r になるようなものと定義して得られる圏を CRng* とする。
点を忘れる関手を U: CRng*CRng としてその左随伴 F: CRngCRng*を考える。

F ┤U

この F は 環 K に多項式環不定元の対 (K[x], x) を与える。

F : CRng ─→ CRng*
       K ├→ (K[x], x)

集合圏と可換環の圏の直積を用いる方法

たまたま最近見かけたツイートで紹介されていた方法。

SetsCRng の積 Sets×CRng を考えて関手 W: CRngSets×CRng

W : CRng ─→ Sets×CRng
     K   ├→ (|K|, K)

と定める。ここで |K| は可換環 K を集合とみなしたもの。この関手 W の左随伴 F: Sets×CRngCRng を考える。

F ┤ W

これは集合と可換環の対 (S, K) に対して、S を不定元の集合とする多項式環 F(S, K) = K[S] が得られる。

F : Sets×CRng ─→ CRng
      (S, K)   ├→ K[S]

自由加群と対称代数を用いる方法

多重線型代数#多項式環 Wikipediaに紹介されている方法。
K を可換環として、K-加群の圏を K-Mod、可換K-代数の圏を CAlgK とする。とくに忘却関手 U: CAlgKK-Mod が存在する。
K-加群から対称代数を構成する関手 S: K-ModCAlgK は忘却関手の左随伴になる。

S ┤ U

また K-Mod から Sets への忘却関手を U': K-ModSets とすると、集合から自由 K-加群を構成する関手 F: SetsK-Mod は U' の左随伴になる。

F ┤ U'

合わせた図を描くと

        F              S
     ------>        ------>
SetsK-ModCAlgK
     <------        <------
        U'             U

となる。F と S、U と U' をそれぞれ合成したもの同士は再び随伴関係になる。

F;S ┤ U;U'

U ; U' は結局可換 K-代数から集合への忘却関手であり、その左随伴を考えたことになる。
F ; S は n に対して n 変数多項式環 K[x1,...,xn] を対応させる関手になっている。

F;S : Sets ─→ CAlgK
        n  ├→ K[x1,..., xn]

以上

多項式環の随伴による特徴づけを 4 つ紹介した。最初は 1 つだけだろうと思ってたところに、偶然色々見つかってしまった。4 つあるということは多分他にも沢山考えられるんだろうと思う。Mac Lane が用意していた解答はどんなものだったんだろうか?